第69回全日本吹奏楽コンクールの課題曲5曲の聴きどころを、参考演奏を担当したオオサカ・シオン・ウインド・オーケストラのコンサートマスター古賀喜比古さんに聞いた。
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Ⅰトイズ・パレード 平山雄一(第30回朝日作曲賞)
第一印象はシンプルですが、楽譜を読めば読むほど発見がある、楽しいおもちゃ箱のような作品です。
スーザやシューベルトなどの行進曲の一節がちりばめてあったり、おもちゃたちのパレードを数々の「びっくり箱」が待ち受けていたり。楽譜に書かれた「仕掛け」を読み解き、どうお客さんに届けるか。突き詰める面白さがあります。
注目は、クライマックス。非常にゆっくり始まり、元のテンポに戻ってフィナーレを迎えますが、実はこれが難しい。おもちゃたちは、無事格好よく「着地」できるでしょうか。
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Ⅱ龍潭譚 佐藤信人
泉鏡花の小説「龍潭譚(りゅうたんだん)」をモチーフにした、和の雰囲気をたたえた曲です。特に前半は木管楽器中心で、金管楽器が大活躍する他の4曲とは対照的です。
ひとりひとりの表現力が問われる上、ソロが多く、少子化などで増えている少人数バンドでも、演奏効果が十分出せる曲でしょう。
前半では、木管の音色や、その組み合わせで生まれる色彩の変化を楽しんでほしい。そして、金管が活躍する中盤を抜け、静けさが戻った時に響く神秘的な響き、バスクラリネットとピッコロによる非常に難しいソロにもご注目下さい。
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Ⅲ僕らのインベンション 宮川彬良(全日本吹奏楽連盟委嘱作品)
例年、課題曲の中で最も難しいのはⅤですが、今年はこの曲でしょう。例年ならⅤを選ぶような団体の挑戦が多くなりそうですね。
聴き比べると、同じ曲でも全く違う印象を受けるかもしれません。数々のアイデアがちりばめられた楽譜を、どう読み解くかで大きく変わるからです。数字による速度指定がないため、ある程度の幅をもつ言葉による速度表示の、どのあたりを選ぶかでも印象が変わります。
名曲「展覧会の絵」のように親しみやすいテーマに導かれて次々と現れる個性的な風景をお楽しみ下さい。
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Ⅳ吹奏楽のための「エール・マーチ」 宮下秀樹
今年は、このシンプルなマーチを選ぶ団体が多いようですが、バンドの実力を裸にする、隠れた難曲だと僕は思います。
作曲の宮下さんは中学校の先生。吹きやすい中音域を中心に、複数のパートを重ねてメロディーがよく響くようにするなど、教育的配慮が行き届いています。
ただ、音域が限られている分、どこも似た響きになりやすい。工夫して多彩な響きを演出したいですね。
注目はスネアドラム。華やかなリズムで、ゆったりテンポのマーチを導く「主役」は、意外な場所にいるかも。探してみて下さい。
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Ⅴ吹奏楽のための「幻想曲」―アルノルト・シェーンベルク讃 尾方凜斗(第12回全日本吹奏楽連盟作曲コンクール第1位)
聴いたことがないような響きが楽しめる曲です。
冒頭、メロディーの音ひとつひとつに、いろいろな楽器がパズルのように音を重ね、ふわふわした響きを演出。さらに同じ動きをするグループがそれぞれの楽器の響きをブレンドして新しい音をつくり出します。
「ため息」をついたりマウスピースを逆にして息を入れたりと、金管楽器の特殊奏法も。この音は何の楽器だろうと聴く人が気にし始めたら大成功です。
後半は一転、たたみかけるようなリズムでトランス状態に入るので高揚感をどう出すかがポイントです。(聞き手・魚住ゆかり)
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《第69回全日本吹奏楽コンクール》
10月23日(土)中学校 前半の部9:00~/後半の部14:40~
10月24日(日)高校 前半の部9:00~/後半の部14:40~
10月30日(土)大学の部 14:30~
10月31日(日)職場・一般 前半の部9:40~/後半の部14:40~
中学校と高校は30団体ずつ、大学13、職場・一般26の計99団体が、全国11の支部の代表として出場する。
主催 全日本吹奏楽連盟、朝日新聞社
《朝日新聞社と全日本吹奏楽コンクール》
朝日新聞社は、全日本吹奏楽連盟の前身である大日本吹奏楽連盟の創設(1939年)にかかわり、1940年に第1回大会が開かれた全日本吹奏楽コンクールを連盟とともに主催してきた。1990年には公募の作曲コンクール「朝日作曲賞」が設けられ、最優秀作品がコンクールの課題曲となっている。
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10月24日に予定される第69回全日本吹奏楽コンクール高等学校の部をはじめ、コンクールのすべての演奏を、全日本吹奏楽連盟と朝日新聞社はオンラインでライブ配信します。会場への入場は出演関係者に限られ、入場券の一般販売はありません。配信の詳細は専用サイト(https://www.asahi.com/brasschorus2021/wbandcompetition.html?ref=article)をご覧ください。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル